身寄りのない高齢者支援、新事業へ体制づくり——豊中市は2027年度中の事業化目指す、富山市は無縁遺骨314柱に

関連自治体:大阪府豊中市 / 東京都杉並区 / 鳥取県鳥取市 / 千葉県船橋市 / 大分県 / 富山県富山市 / 大阪府八尾市 / 岩手県盛岡市 / 香川県善通寺市

2026年6月19日に参議院本会議で可決・成立した改正社会福祉法(同月25日公布)は、頼れる身寄りがいない高齢者等への日常生活支援、入院等の手続支援、死後事務支援を第二種社会福祉事業に位置付けた。新事業の施行は公布後2年以内に政令で定める日とされている。9月議会では、豊中市が2027年度中の事業化を目指す方針を、杉並区が2027年度に可能なものから実施する方針を答弁した。一方で富山市は、一時保管する無縁遺骨が今年度の8月末時点で314柱に達していると明らかにし、新事業の検討には整理すべき課題が多く、事業化に相当の時間を要するとの認識を示した。

改正社会福祉法で何が変わるか

改正法は「社会福祉法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第51号)。2026年5月26日に衆議院本会議、6月19日に参議院本会議で可決され、6月25日に公布された。施行日は2027年4月1日が原則だが、改正事項によって異なる。

身寄りのない高齢者に関する新事業の名称は「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」で、社会福祉法第2条第3項第12号に基づく。厚生労働省の資料によると、対象は頼れる身寄りがいない高齢者等と判断能力が不十分な人。支援の中身は、日常生活支援(日常的な金銭管理など)、入院・入所等の手続支援(緊急連絡先の提供、費用の支払代行など)、死後事務支援(葬儀・納骨・家財処分の契約手続支援、行政官庁への届出など)の3つである。

利用者のうち一定割合以上に無料または低額で提供する事業を第二種社会福祉事業と位置付け、社会福祉協議会に限らず多様な主体が担えるようにする。実施主体は事業の開始にあたり都道府県知事に届け出る。無料・低額とする割合の水準は示されておらず、国は事業者向けのガイドライン等を今後策定する予定としている。

この新事業の施行日は公布後2年以内、つまり2028年6月までに政令で定める日。あわせて、頼れる身寄りがいない高齢者等からの相談対応を、地域包括支援センターの総合相談支援事業、生活困窮者自立相談支援事業、障害者相談支援事業の対象として明確にする。厚生労働省は市町村に、地域福祉計画の改定などを念頭に、身寄りのない高齢者等の課題や支援機関の対応状況といった実態の把握を依頼している。

各自治体の表明

  • 大阪府豊中市(2026年9月28日・本会議個人質問・福祉部長): 9月1日現在の単身高齢者は39,221人で全世帯の19.4%を占め、このうち身寄りのない高齢者や支援を必要とする人は約8,000人と見込むと答弁した。身元保証や死後事務の支援は現行制度で対応できないことも多いとして、プロジェクトを設置し、相談窓口の整備とエンディングノートを使った意思決定支援に取り組んでいる。入退院時の支援や死後事務委任契約を組み合わせるコーディネート機能も検討中で、令和9年度中の事業化に向け、終活支援の包括的な制度化を目指すとした。
  • 東京都杉並区(2026年9月14日・本会議・保健福祉部長): 改正法を受け、区として早急に対応すべき課題と認識していると答弁した。相談窓口や支援サービスのあり方を区の社会福祉協議会、成年後見センターと検討しており、令和9年度に可能なものから実施できるよう内容を具体化し、改定する総合計画等に反映する考えを示した。
  • 鳥取県鳥取市(2026年9月3日・福祉部長、市長): 2026年2月に頼れる身寄りがいない高齢者等の相談窓口を開設し、コーディネーターが意思決定支援や関係機関との調整を担うと福祉部長が説明した。7月末までの面談・電話相談は延べ134件で、見守りや通院の同行などの日常生活支援を受けているのは3名。市長は、NPO法人に委託している事業について、改正法の施行日までに社会福祉協議会との役割分担や連携体制を協議する考えを述べ、利用者の負担を抑えて安定的に運営するための財政面の体制整備を課題に挙げた。
  • 千葉県船橋市(2026年9月9日・本会議・高齢者福祉部長): 身寄りのない高齢者向けのサポート事業について、民間の同種サービスを契約しにくい人でも、入退院時の支援や安否確認、死後事務等の支援を使えるパッケージとして提供するものだと説明した。社会福祉協議会が司法書士会の支部と協定を結んで遺言作成の初期費用を定額にしている。職員2名で対応しており、契約件数や業務量の推移を見て事業者と人員体制を協議するとした。
  • 大分県(2026年9月14日・本会議・知事): 県社会福祉協議会が判断能力が不十分な人への日常的な金銭管理などを市町村社協を通じて実施しており、令和7年度末の利用者は1,084人と答弁した。改正で対象に身寄りのない高齢者が加わり、入院・入所等の手続や死後事務の支援が新たに加わって2年以内に施行される見込みだとし、県と市町村の社協が安定してサービスを提供できるよう支援する考えを示した。

積み残る課題

新事業の細部が示されていない段階で、実態の把握や、亡くなった後の対応を担う現場の負担が答弁に表れた。

  • 富山県富山市(2026年9月11日・本会議一般質問・福祉保健部長、市長): 市が一時保管する無縁遺骨は令和5年度末の197柱から、令和6年度末230柱、令和7年度末265柱と増え、今年度は8月末で314柱になったと福祉保健部長が答弁した。身寄りのない人の火葬費用のうち遺留金や相続人の弁償で賄えない分は市が負担しており、令和5年度は300万円余、令和6年度は543万円余、令和7年度は521万円余。現在の保管場所のままでは将来的に保管スペースが逼迫する恐れがあるとした。新事業について市長は、対象範囲、利用件数の見込みと必要な人員、行政・社会福祉関係機関・民間事業者の役割分担など整理すべき課題が多く、事業化には相当の時間を要すると述べ、慎重に検討するよう担当部局に指示したと明らかにした。
  • 大阪府八尾市(2026年9月9日・本会議・健康福祉部長): 令和7年度の葬祭扶助は176件で、うち警察や病院からの通報があり生活保護受給者でなく扶養義務者の確認も取れなかったのは18件と答弁した。身寄りがないと断定できる事例は1割程度とし、生活保護を受けていない人の生前の支援状況は把握が難しく、検証には至っていないとした。引き取り手のない遺骨は葬儀会社を通じて寺院などが預かると把握しているが、納骨先は市で確認も記録もしていないと述べ、手順の見直しとマニュアル整備を早急に進めたいとした。
  • 岩手県盛岡市(2026年9月10日・本会議一般質問・保健福祉部長): 令和7年度の65歳以上の単身世帯は16,680世帯で約21%を占め、今後も増加が続く見込みと答弁した。一方、頼れる親族がいないかどうかの把握は困難として、実態把握や将来推計は行っていないとした。新事業の詳細が現段階で示されていないため、一元的な相談体制の具体策は検討が難しいとし、社会福祉協議会などと連携して体制の構築に努めると述べた。
  • 香川県善通寺市(2026年9月15日・一般質問・保健福祉部長): 引き取り手のない遺体は令和3年度の3件から令和6年度は10件、令和7年度は8件で、増加傾向にあると答弁した。親族が判明しても引き取りを拒まれるケースが多いこと、火葬や搬送などの費用のうち遺留金品で足りない分の徴収と親族との調整、遺留金品が葬祭費用を上回る場合の管理・保管・処分に苦慮しているとした。判断能力はあるが身寄りがなく経済的にも余裕のない高齢者は、任意後見や死後事務委任契約、民間のサポート事業が費用面で使いにくく、現行制度ではカバーしきれない制度の隙間にあたると認識を示し、今回の法改正を歓迎するとした。

背景

当社データベースでは、2025年10月以降の議会答弁関連記録のうち「身寄り」「死後事務」「身元保証」「終活」のいずれかを議題に含むものが約500の議会で確認されている。2026年9月以降の議会に限っても約220の議会にのぼる。

新事業は施行日が政令に委ねられ、無料・低額とする割合やガイドラインも今後示される段階にある。豊中市や杉並区のように実施時期を答弁した自治体がある一方、盛岡市のように新事業の詳細が示されていないとして具体策の検討はこれからとする自治体もあり、対応の段階は分かれている。亡くなった後の対応の負担は、富山市・八尾市・善通寺市の答弁に表れている。火葬場の整備が遅れる地域の答弁は火葬場が足りないで、独居高齢者の見守りをめぐる自治体の対応は独居高齢者の「見守り」、自治体で温度差でまとめている。


出典:

記事中の議会での発言・答弁は、公開されている議事録と議会中継の動画に基づいています。リンク先の動画は、公開元の都合により視聴できなくなる場合があります。