【札幌市】DMO設立調査業務、採点表に見る「独自提案」の重み——5社中最高522点で受託

関連自治体: 北海道札幌市

札幌市が2023年7月に実施した「札幌版DMO設立に向けた調査・検討業務」の公募型プロポーザルで、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社が5社中最高得点で受託事業者に選ばれた。予算上限1,000万円という比較的小規模な調査業務だが、公開された採点表を分析すると、自治体が何を重視して事業者を評価したかが具体的な数字として読み取れる。

案件の概要

札幌市経済観光局が公募したのは「札幌版DMOの設立に向けた調査・検討業務」である。DMO(Destination Management/Marketing Organization)とは、観光地域づくり法人と呼ばれ、地域の観光関連事業者や団体、行政などが連携して観光地経営を進める組織を指す。

提案説明書によると、本業務の目的は、観光関連団体・事業者への調査や国内外のDMO事例調査を踏まえ、札幌にふさわしいDMOの目的(ミッション)や戦略、組織体制、財源・人材、他DMOとの連携体制、設立に向けたロードマップをまとめた「札幌版DMOの方向性・概要」を作成することである。契約限度額は1,000万円(消費税及び地方消費税を含む)、業務委託期間は契約締結日から2024年3月29日までとされた。

公募は2023年6月23日に開始され、6月30日に質問受付を締め切り、7月12日に企画提案書等の提出期限を迎えた。選定委員会(ヒアリング)は7月19日に開催され、同日中に契約候補者が決定している。審査に参加した事業者は5社だった。

採点表が示す評価の重み

提案説明書には「評価項目及び評価基準表」が添付されており、6つの評価項目とその配点比重(係数)が明記されている。評価は「5点:非常に優秀 4点:優秀 3点:普通 2点:やや劣る 1点:劣る」の5段階評価点に、項目ごとの係数を掛けて算出する方式である。

評価項目係数満点(評価点)
DMOの設立に関する基本的な認識420点
各種調査の詳細525点
検討体制の構築420点
業務の執行体制及びスケジュール210点
過去の業務実績210点
独自提案315点
合計100点

係数の大きさから、札幌市が最も重視したのは「各種調査の詳細」(係数5・満点25点)であることが分かる。次いで「DMOの設立に関する基本的な認識」と「検討体制の構築」がそれぞれ係数4・満点20点で並び、「独自提案」は係数3・満点15点にとどまる。「業務の執行体制及びスケジュール」と「過去の業務実績」は係数2・満点10点で、配点上は最も軽い扱いとなっている。

この配点構成からは、札幌市が本業務を「独自のアイデア」よりも「調査の設計力」と「DMOそのものへの理解」を軸に評価しようとしていたことが読み取れる。提案説明書の「7 企画提案を求める事項」でも、(1)DMOの設立に関する基本的な認識、(2)各種調査の詳細、(3)検討体制の構築という3項目がまず求められており、これは配点上位の3項目と一致する。

なお、選定方法の項には「提案者が1者となった場合、実施委員会が定める最低評価基準点(総合得点の6割)を超えた場合のみ契約候補者として選定する」との規定があるが、失格に直結する価格点や下限点の具体的な数値は提案説明書上では確認できない。また、本件は契約限度額(提案上限額)が1,000万円と定額で示されており、提案説明書・選定結果ともに「価格点」に相当する評価項目は設けられていない。評価は6項目すべてが技術面・提案内容に関するものであり、価格による競争ではなく提案内容の質のみで序列が決まる方式だったと確認できる。

選定結果の得点分布

選定結果の公表資料には、審査に参加した5社の項目別得点と総合得点が事業者名込みで記載されている。落選した4社については選定結果PDF上でも「A社」「B社」「C社」「E社」と匿名表記されており、本記事でもその表記に従う。

参加者名DMOの設立に関する基本的な認識(満点140)各種調査の詳細(満点175)検討体制の構築(満点140)業務の執行体制及びスケジュール(満点70)過去の業務実績(満点70)独自提案(満点105)総合得点(満点700)
A社8810580423848401点
B社648572403039330点
C社887568404057368点
デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社11613096545472522点
E社10012588465066475点

選定結果に記載された満点は、提案説明書の評価基準表(合計100点)の7倍にあたる700点である。この対応関係から、提案説明書の評価基準表は評価者1人あたりの配点であり、選定結果の700点満点は複数の評価者の得点を合算したものである可能性が高いと考えられる。ただし、実施委員会の委員数そのものは公開資料からは確認できない。委員が庁内職員のみで構成されるのか、外部有識者を含むのかについても、提案説明書・選定結果のいずれにも記載がなく、本記事の時点では確認できない。

勝敗の分かれ目

受託した1位のデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社と、2位のE社との総合得点差は47点である。項目別に得点差を見ると、次のようになる。

  • DMOの設立に関する基本的な認識: 116点 対 100点(差16点)
  • 各種調査の詳細: 130点 対 125点(差5点)
  • 検討体制の構築: 96点 対 88点(差8点)
  • 業務の執行体制及びスケジュール: 54点 対 46点(差8点)
  • 過去の業務実績: 54点 対 50点(差4点)
  • 独自提案: 72点 対 66点(差6点)

47点の総合得点差のうち、最も大きな差が生じたのは満点175点の「各種調査の詳細」ではなく、満点140点の「DMOの設立に関する基本的な認識」(差16点)だった。次いで「検討体制の構築」と「業務の執行体制及びスケジュール」がそれぞれ8点差で続く。配点上最も重い「各種調査の詳細」(満点175点)では両社の差はわずか5点にとどまっており、この項目自体は僅差だったことになる。

この得点分布からは、両社とも調査手法の設計自体は高く評価されていた一方で、「DMO設立に関する現状・課題の的確な把握」という認識面の評価で最も大きな差がついた可能性がある。提案説明書の評価内容には「DMO設立に関する知見を十分に有しているか」「札幌市におけるDMO設立に向けた現状や課題を的確に把握しているか」という2つの観点が示されており、この項目は分量として最も差が開きやすい評価軸だったと読み取れる。

もっとも、公開資料には各評価者の採点根拠や具体的なコメントは記載されておらず、なぜこの項目で差がついたのかという内容面の理由は確認できない。落選事業者の提案内容そのものも非公開であり、本記事では推測の域を出ない。

上位計画との接続

この調査・検討業務は、単発の委託ではなく、札幌市の観光施策の流れの中に位置づけられる案件である。

札幌市が2026年7月時点で公開している「第2次札幌市観光まちづくりプラン」(計画期間: 2023年度〜2032年度の10年間)には、有識者や観光事業者・団体の代表者等で構成される「次期札幌市観光まちづくりプラン検討委員会」において、観光の推進体制強化にあたり「DMOの設立が必要」との提言が提出されたと記載されている。この提言を受け、同プランの第6章「推進体制の強化に向けて」の「5-1 一体的・戦略的に取り組める組織体制の構築」には、「DMO設立を含めた、札幌市全体での持続可能な観光戦略の推進を担う体制・組織の強化を行います」と明記されている。

本件のプロポーザルは、この検討委員会の提言(2022年度)を受けて2023年7月に実施されたものであり、プランの計画期間の初年度にあたる。すなわち、上位計画に「DMO設立を含めた体制強化」という方向性が明文化される前後の時期に、その実行段階の第一歩として「DMOの方向性・概要」を具体化するための調査業務が発注されたという接続関係が、公開資料から確認できる。

なお、同プランの資料編によると、観光庁の登録制度上、2022年10月時点で全国に地域連携DMOが122件(うち候補19件)、地域DMOが188件(うち候補46件)存在し、北海道内には地域DMOが12か所、政令指定都市では横浜市・京都市・神戸市・北九州市の4市で地域DMOが設立されているとされる。札幌市は同時点で地域DMOが未設立の政令市の1つだったことが、この資料から確認できる。

公開資料からは確認できないこと

以下の点は、本記事で参照した3点の資料からは確認できない。

  • 実施委員会の委員数・委員構成(庁内職員のみか、外部有識者を含むか)
  • 各評価者個別の採点結果(選定結果に記載されているのは合算後の数値のみ)
  • 落選した4社(A社・B社・C社・E社)の提案内容
  • 最低評価基準点(総合得点の6割)に相当する具体的な点数と、各社がこれを満たしていたかどうかの個別判定
  • 2024年3月納品とされた成果品「札幌版DMOの方向性・概要」の内容そのもの、およびその後のDMO設立の進捗状況

この案件から学べるポイント

  • 配点の軽重は募集要領の「求める事項」の並び順と一致することがある。 本件では「企画提案を求める事項」の記載順((1)基本的な認識→(2)各種調査の詳細→(3)検討体制の構築)が、配点上位3項目の顔ぶれと重なっていた。提案書の紙幅配分を検討する際、募集要領の記載順や強調のされ方は配点の重みを推測する手がかりになり得る。
  • 「独自提案」は配点上、最重要項目ではないことが多い。 本件でも独自提案の配点(15点)は、各種調査の詳細(25点)や基本的な認識・検討体制(各20点)より低かった。独自性のアピールに紙幅を割きすぎるより、募集要領が明示的に求める基本項目(現状認識・調査設計・体制)を過不足なく厚く書く方が、配点上は有利に働きやすい。
  • 得点差は「配点が最も重い項目」で開くとは限らない。 本件では満点175点の最重要項目での得失点差はわずか5点だったのに対し、満点140点の項目で16点差がついていた。総合点で競り合う場面ほど、配点の大きさより「差がつきやすい項目」を見極めて磨き込む視点が有効である。
  • 提案上限額が定額で示され、価格点の評価項目がない案件もある。 このような案件では価格面での差別化は評価に反映されず、技術提案の内容がそのまま序列を決める。募集要領に価格評価の記載があるかどうかは、提案準備の力点を判断する材料になる。
  • 上位計画・検討委員会提言と個別委託の時期的な接続を確認すると、案件の位置づけがより正確に把握できる。 本件は上位計画の初年度に、計画に明記された体制強化施策を具体化する調査として発注されていた。同種の案件では、募集時点の上位計画・検討委員会資料を確認することで、単発案件か継続的な施策の一部かを見極めやすくなる。

参考資料

出典

記事中の議会での発言・答弁は、公開されている会議録・中継動画に基づいています。動画リンクは公開元の都合により視聴できなくなる場合があります。