コラム

自治体営業のリアル——よくある7つの勘違いと、正しい攻め方

自治体営業をしている事業者の方と日々話す中で、「あ、それ勘違いされているな」「そこ、力の入れどころが違うな」と感じる場面が本当によくある。サービス自体はいいものを持っているのに、攻め方で空回りしてしまう。そういうケースがとても多い。政令指定都市で25年働いた元自治体職員の目線で、これまで見てきた実践知を、7つのエピソードにして正直に書く。多少耳の痛い話もあるが、そのぶん役に立つはずだ。

この記事の要点

  • 「サービスはいいんだけどね」は褒め言葉ではなく断り文句。粘るより「今どこがダメか」を聞く。
  • 展示会の"意識高い系"職員は、まず名刺の部署名を確認。担当でなければ紹介は進みにくい。
  • 頻繁な訪問(詰める営業)は相手の時間を奪う。足で稼ぐ時代は終わりつつある。
  • ニッチな商材は展示会より、公民連携窓口・ピッチ・無料の壁打ちを先に狙う。
  • メディアが効くのは「緊急性が高い/制度改正で対応せざるを得ない」テーマだけ。
  • 上流に入りたいなら、事業計画・アクションプラン・首長の発言という公開情報を読む。
  • 競合を理解して自社の強みを言語化し、「自治体の課題を解決するツール」として認識してもらう。

エピソード1|「サービスはいいんだけどね」は、実は断り文句

商談で「いや、サービスはいいんだけどね」と言われること、ないか。褒め言葉に聞こえる。だが正直に言うと、あれは断り文句だ。「いいんだけどね」の先に、動く意志はほぼない。「これ以上は前に進みませんよ」と宣言しているのとほぼ同じである。

だから、この言葉が出た時点で、そこで粘る必要はあまりない。食い下がっても、そこから話がまとまることはほとんどない。ただ、それでももう一歩だけ投資するなら、聞くべきことは1つだけある。「じゃあ、今どこがダメなんですか」——これだ。どこが引っかかっているのかを正直に聞き出す。ここだけは押さえておいたほうがいい。そこが分かれば次につながる可能性はゼロではない。とはいえ、その場での逆転はあまり期待しないほうがいい。

エピソード2|展示会の「意識高い系」に紹介を頼んでも進まない

展示会に出展してリードを獲得すると、その中に一定数、関心の高い、いわゆる"意識高い系"の職員がいる。自治体職員の鑑のような存在で、いろいろな情報を自分から取りにいっている。総合職=ジェネラリストとしての意識がとても高い。話していて気持ちがいい。

ただ、ここが落とし穴だ。その方の部署名を、必ず確認してほしい。意識が高いことと、その方があなたの売りたいサービスの担当部署にいることは、まったく別の話である。担当でない方にいくら熱く語っても、「担当部署に紹介してください」と頼んでも、そこから話がまとまることはほとんどない。熱量に引っ張られて時間をかけすぎないこと。まず名刺の部署名を見る。ここを冷静にやってほしい。

エピソード3|「詰める営業」で通い続けるのは、ほどほどに

営業成績を上げようとして、繰り返し訪問する。よく聞くやり方だ。だが正直に言うと、これは押し売りに近い。すでに馴染みの担当者がいて関係性ができているなら、通うのはいい。それは別だ。

ただ、しつこく詰めると、結局は相手の時間を奪うことになりかねない。自治体職員は忙しい。頻度で言うなら、多くても週1回くらいがいいところではないか。もちろん自治体による。それに今は、そもそも執務室まで入れてくれない自治体も増えている。昔ながらの「足で稼ぐ」やり方は、もう時代に合わなくなってきている。ここは切り替えたほうがいい。

エピソード4|ニッチなサービスなら、展示会より「無料の壁打ち」を狙え

ニッチなサービスの場合、展示会はコスパが合わないことが多い。マーケティング的な意味合いでは悪くないが、その投資に見合うだけのリードが取れるかというと、正直しんどい。だったら発想を切り替えたい。

世の中には、自治体向けの無料のピッチや壁打ちの場が結構ある。まずはそういうところで壁打ちしてもらったほうが早い。具体的には——

  • 公民連携の部署:「提案を積極的に受け入れています」と打ち出している自治体
  • ピッチコンテスト:スタートアップや事業者の提案を募集している自治体

こういうところを探して当たっていくのがいい。いきなり展示会、というのはお金の使い方としてはもったいない。その前段階で壁打ちをさせてもらう。場合によっては、問い合わせフォームで送るというのもありだ。そのほうがむしろ早かったりする。

あわせて、実証実験に前向きな自治体を探すのも有効だ。何も情報をつかんでいない相手に飛び込むより、「積極的に取り込もうとしている自治体」を探して当たるほうが、話は早い。どの自治体でどんな検討が動いているかは、議会答弁から課題を可視化した記事などの公開情報から拾える。展示会は、サービスがある程度固まった段階からでいいのではないか、というのが私の考えだ。

エピソード5|展示会もメディアも「当たり外れ」がある——時期・規模・相手を見る

「展示会に出てみたが、あまり良くなかった」「自治体職員より、別の販売業者ばかり来た」という声もよく聞く。ここで見るべきは、まず時期と規模だ。

首都圏の大きな展示会は、そもそも自治体職員を集めるのが難しい。主催者任せにしていると、狙った層はなかなか増えない。規模がかなり大きいものでないと、認知度は上がりにくい。どこに出展するか、その見極めが重要である。

もう1つ、メディア系について。掲載メディアはたくさんあるが、自治体職員がメディアを見るのは「手が空いているとき」だけだ。私自身も行政の中にいたので分かる。だから「見てくれたらラッキー」くらいの感覚でいないと、期待しすぎるとしんどい。

では、メディアが効くのはどういうときか。緊急性が高いもの、これからの政策や制度改正で対応せざるを得ないもの。こうしたテーマなら載せる価値がある。実際、当社が議会の会議録を横断的に集計したところ、教員の不足・未配置は全国1,127自治体、下水道の老朽化・更新は822自治体の議会で議論されていた(自治体の課題ランキング)。多くの自治体が現に頭を抱えている課題ほど、メディアで取り上げる意味がある。逆に「あったらいいな」レベルのサービスは、いくら素晴らしくても厳しい。自治体には予算があり、優先順位がつけられている。そのタイミングで、あなたのサービスに関心を持つ職員がどれだけいるか。そこまで考えてメディアは選ぶべきだ。届くのは、手が空いている人か、緊急で情報収集しているタイミングの人に限られる、と思っておいてほしい。

エピソード6|上流を狙うなら「事業計画・アクションプラン・首長の言葉」を読む

「プロポーザルに入りたい」「もっと上流工程から関わりたい」という要望も本当によく聞く。だが、そのタイミングが難しい、という話になる。ここで伝えたいのは、狙いの自治体が決まっているなら、情報はちゃんと公開されている、ということだ。

  • 事業計画・アクションプラン:自治体の意思がここに反映される。この計画に沿って予算要求もされる。年次ごとに何をやるかが詳しく載っていることもある。非常に重要な参考資料なので、必ず拾ってほしい。
  • 市長・首長の発言:これは本当に重要だ。どこに重点を置くかは、首長の思いが色濃く反映される。必ず確認してほしい。

タイミングが難しいと言う前に、こうした公開情報から「この自治体が今どこへ向かおうとしているか」を読み取る。そこに自社を重ねられるかどうかで、上流に入れるかが変わる。こうした情報を体系的に押さえる手段はサービス比較でも整理している。

エピソード7|「自社の本当の強み」を、あなたは語れるか

最後に、いちばん怖い話をする。自社のサービスを売り込む中で、「うちのサービスの本当の強みは何か」を、ちゃんと言えるか。

たとえば「熱中症対策」と一口に言っても、とても広い。「鳥獣被害対策」も盛んに言われるが、その中にはいろいろなツールがある。相手はそれを分かっている。その中で、自社のサービスが他社とどう違うのか。どこが強くて、どこに経済性があるのか。それを伝えられないと、「その他大勢」と同じ扱いになってしまう。これがいちばん怖い。

相手は競合サービスもよく把握している。似たような提案が実際に来ているわけだ。だから「同じような話、前も聞きましたよ」で流されてしまいがちである。だから2つ気をつけてほしい。1つは、競合をよく理解したうえで、自社の強みをきちんと言語化して伝えること。「他社と比べてここが違う」を語れるようにしておく。もう1つは、単なる自社の売り込みで終わらせないこと。「自社のサービス」ではなく「その自治体の課題を解決するためのツール」だと認識してもらう。そこまで持っていって初めて、「検討に値するか」「緊急性が高いか」という土俵に乗る。

おわりに

7つ、正直に書いてきた。根っこにあるのは同じことだ。相手(自治体)の都合・タイミング・優先順位を、こちらがどれだけ理解できているか。これに尽きる。

「サービスがいい」だけでは動かない。相手が今どこへ向かっていて、何に困っていて、いつなら耳を傾けてくれるのか。そこを読んで、こちらの見せ方・当たり方を合わせていく。遠回りに見えて、これがいちばんの近道だと思う。まずは、無料の壁打ちの場を探すところから始めてみてほしい。

さらに詳しく(論点別の解説)

本記事の各論点は、公的な制度・データを添えて個別に解説しています。

出典